成分分離プロセス

セルロース,ヘミセルロース,リグニンの
すべてが使える成分分離プロセスの探求

 木質バイオマスの主成分は,セルロース,ヘミセルロース,リグニンという高分子です。これらは相互に絡み合って複合体を形成しており,簡単に溶媒などで分離することができません。過去に様々な木材成分分離法が研究されてきましたが,①リグニンを分解して溶かし出して,セルロースを残す(アルカリ蒸解,オルガノソルブ蒸解など),②セルロースやヘミセルロースを加水分解してリグニンを残す(酸加水分解など),という2パターンに大別されます。しかもそのほとんどにおいて,リグニンは構造制御不能で,「使えない」という問題点を抱えています。そこで当研究室では,「使いやすいリグニン」を得ることができて,かつ,セルロースやヘミセルロースからも有用な化合物を得るプロセス,さらには将来的にスケールアップがしやすそうなプロセスを追究しています。リグニンは構造が複雑な天然物ですので,何が「使いやすい」かは,大変難しい問題なのですが,誘導体化したり,何かに混ぜたりすることを考えれば,まずは有機溶媒に溶けやすい,熱可塑性がある,などの特性を有するリグニンの獲得を目指しています。

具体的テーマ
・フェノール含浸木材の前加水分解ソーダ蒸解による三成分完全利用システム
・白色リグニンのオリジナル単離システム
・リグノセルロースのイオン液体への完全溶解・成分分離システム
・常温(多段)アルカリ処理をベースとする成分分離,機能性成分の探索(特にリグニンの少ない草本系)
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パルプリファイナリー:
現在の紙・パルプ産業の産物を多用途に活用する

 これまで幾多のバイオマス利用に関するパイロットプラントが建設されましたが,いずれも実用に至っていません。これに対して,紙パルプ産業は,膨大な量の木材チップが連続的,化学的に蒸解されている点で,他の追随を許しません。製紙工場では,木材チップが蒸解釜で脱リグニンされ,セルロース繊維を主体とするパルプが得られます。溶かし出されたリグニン(黒液)は濃縮され,燃焼され,所内エネルギーとして有用活用されています。そこで,得られるパルプの紙以外の利用,リグニンの燃料以外の利用を目指します。
 2006年にノースカロライナ州立大学にて在外研究していたとき,”Forest Biorefinery”というプロジェクトに従事していました。閉鎖した製紙工場を利用してパルプを製造し,酵素糖化,発酵して,バイオエタノールを得るというものです。さらに拡張して,紙の値段がいいときは紙をつくり,エタノールの値段がいいときはエタノールをつくるというデュアルパーパスのプロセス設計も行いました。エタノールの価格は安いですが,パルプを酵素糖化して単糖を得る重要性は今後ますます高まると考えます。パルプの糖化は,木材と比べればかなり容易ですが,しかし少ない酵素量で糖化して,かつ何度も繰り返し酵素を使うのは案外難しいことです。また液体酸,酵素に代わる固体酸触媒の開発にも取り組んでいます。
 製紙プロセスで副生されるリグニンですが,このリグニンを水素化分解などして,モノフェノール類やBTXを得ようとする研究は,過去に膨大に行なわれています。高収率な反応系,触媒が開発されるなら,いまでも大変インパクトのあると考えています。しかし,多くの人が取り組んで不成功ということで,私はパルプと再複合して任意のリグニン含有量の人工木質繊維をデザインしたり,リグニンを貼ったり含浸したりして木材やファイバーボードに難燃性を付与できないか,といった切り口で研究をしています。

具体的テーマ
・パルプ,セルロース系基質の酵素糖化,残渣への酵素吸着,失活挙動
・多糖加水分解用の新しい固体酸触媒の開発
・セルロース誘導体を用いたセルロース繊維の成形:
 紙でもなく,糖でもなく,そのまま成形してプラスチック代替
・黒液吸収酸性化によるセルロース繊維とリグニンの複合による人工木質繊維の開発
・木材成分のみによる(いわゆる難燃化剤を使わない)難燃性木材または木質材料の開発
・イオン液体へのセルロース,リグニン任意比率での溶解,複合
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